ピーターティール「Zero to One」を読んで。競争より独占は本当に正しいのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピーターティール「Zero to One」(ゼロ・トゥ・ワン)を読んで、非常に勉強になりました。

スポンサーリンク


ゼロ・トゥ・ワンのポイント

この本のポイントは、一般的に信じられているスタートアップの常識を否定し、以下の内容を提示しています。

1 小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
2 出来の悪い計画でも、ないよりはいい
3 競争の激しい市場では収益が消失する
4 販売はプロダクトと同じくらい大切だ

そうした上で、あるべき姿は、「競合がいない圧倒的に独占できるようなコンセプトを事前に計画し、それに全てを賭けろ」というものです。

これが、事業家であり投資家であるティールの信条を表しているものです。

ティールの主張-独占の正当性

特に経済政策の観点から大きな示唆となったのが、ティールが競争ではなく独占の重要性を強調する点です。

経済学的な常識では、完全競争こそ消費者にとって善であり、独占は市場の失敗の典型例です。
独占で消費者利益が収奪されるからこそ、その独占の弊害を防ぐために政府介入が正当化されているのです。

このような政府介入としては、設備コストが莫大で一社で供給した方がいい、つまり、あえて独占させて方がいいという場合、許認可で独占を認める代わりに、独占の弊害で価格が上がらないように、価格の規制などを行っています。

ティールは、グーグルの例を引き合いに出し、「邪悪になるな(Don’t be evil)」という社是を実践できるのは、
グーグルが独占企業であり、つまり、「カネ以外のことも考えられる企業」だからこそ、倫理について考える余裕がある
としています。

政府が考える公共政策の目的は、当然ながら、カネ以外の公共性の部分です。ティールの言葉を借りれば、倫理の実現でもあります。
この点、見ている最終点は同じものの、そのために独占を許容するのは、独占を防ぐのか、というのは、ティールの主張と通常の公共政策の考え方で異なっているのが興味深いです。

さらに、ティールが主張するのは、独占的利益がイノベーションなどの源泉になるという点です。
独占から得られる超過利潤は、本来消費者に帰属していた利潤(消費者利潤)から生まれるもの(つまり、消費者利潤を収奪して生産者利潤になること)ですが、それが獲得できるのは世界が変化しない場合に限るとしています。
しかしながら、現実の世界は常に変化しており、独占による利益がイノベーションを生むと主張します。その最たる例がアップルだと言っています。
アップルは独占できたからこそ、イノベーションの余裕があったということです。

また、失敗例としては、米国のクリーンテクノロジーのバブルの時代を示しています。
クリーンテクノロジーは結局は独占を得られるような市場ではなかったとし、環境関連での唯一の成功事例としてテスラを挙げています。
テスラは、テクノロジーとして高い技術力、タイミングとして補助金のタイミングが限られているのを見抜いていた、独占としてハイエンドの電気スポーツカー市場という独占できる市場から始めた、チームとしてCEOが最高のエンジニアであり最高のセールスマンなどのポイントを挙げています。

経済学では均衡モデルを前提としますが、実際のビジネスにおいては均衡は静止状態であり、競争均衡の業界では、一企業は他に代替されるため、企業の撤退は何ら意味を持たないとしています。つまり、競争均衡で参入障壁がなければ、一企業として重要な存在にはなりえないというロジックです。

ティールが示している独占企業の特徴は、プロプライエタリ・テクノロジー、 ネットワーク効果、規模の経済、ブランドです。
そして、実際のスタートアップの姿勢として、小さく初めて独占する、破壊しない、ラストムーバーとしての独占的利益の享受といった点を挙げています。

ティールの主張への公共政策からの見方

ティールの考え方は、政府の立場から見ても勉強になるものです。

従来、独占企業は、いわゆる自然独占など産業(電力会社など)を典型例に置かれて考えられていました。
そうして、こういった自然独占産業については、放っておくと独占による市場の失敗が生じるので、例えば、電気料金には政府の認可制などの制度が設けられていたのです。

最近は、こういった古典的な自然独占産業も、自然独占の源泉であるボトルネック部分(電力会社の場合は送電網)のみ独占を認め、他は競争原理が導入されています。

一方、テクノロジー分野では、古典的な自然独占でもないような、グーグル、アップル、フェイスブックなどが事実上の独占的な立場を築いています。
これらの企業は、ティールが主張するように、世の中にイノベーションをもたらしました。スマホやその上のプラットフォームとしての機能がその最たるものでしょう。

たしかに、政府が余計な規制をしなかったことは、イノベーションという果実を得ることに寄与したと考えられます。

現実に、独占となったテクノロジー企業に対して何か政府が対応をするとすれば、それは、独占を使った支配力の濫用であったり、消費者の利益を害するような弊害がでたときなのでしょう。そのときに出てくるのは、事業の類型に着眼した事業規制ではなく、横断的な競争法や消費者保護法なのではないかと思います。

まとめると、企業努力による独占の達成がイノベーションを生むこと自体は否定されることではなく、独占企業の存在そのものを否定する必要はないが、仮にその独占的な地位が不当に行使された場合には、政府の対応が必要ということかと考えています。

いずれにしても、学者サイドからではなく、ビジネスサイドから、経済学の原理も踏まえた上での考察はとても参考になりました。良本です。

スポンサーリンク


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください