国家公務員の天下りと転職について

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文部科学省の組織的な再就職の斡旋が問題になりました。
今回は、国家公務員の再就職(転職)について分析してみます。

私見ですが、天下りの斡旋を不当に行うのは当然悪いことですが、それを防ぐための制度が、役人が普通の転職活動をすることをやりにくくしている一因にもなっているように思います。

問題視すべきは、定年に近くなった職員が利害関係をベースに関係企業に強引に再就職したり、それを斡旋する行為だと思います。

特に若手官僚が自らの意志で退路を断って、自ら主体的に転職活動をすることは本来的には何ら問題はないはずです。
しかしながら、場合によっては制度が結構広く解釈する余地があるので、若手で志がある官僚が転職しにくになっているのも事実だと思います。

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国家公務員法の再就職等規制の概要

国家公務員法に規定する再就職等規制は、
1 他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制
2 現職職員による利害関係企業等への求職活動規制
3 再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制
の3つの規制があります。

1つずつ見ていきたいと思います。

1 他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制

まずは、現職の役人や役人OBに再就職を頼んだりすることです。
今回の文科省の事例は、OBの嶋貫氏を調整役としていましたので、ケースとしてはこれに当たりますね。
一般的にイメージする天下りの斡旋で、悪いことであるのは分かりやすいかと思います。

ただ、個人で転職活動をする場合、これは問題になりません。

2 現職職員による利害関係企業等への求職活動規制

2つ目は「利害関係企業等」への求職活動の禁止です。
最も気をつけなければいけないのはこの規制です。

というのも、自らの手で主体的に転職活動をして、何かの見返りを求めないような場合でも、形式的にはこの規制の禁止行為に該当する可能性があります。

係長級以下の場合は、この規制は適用されないので、20代の第二新卒くらいであれば、問題ありません。
ただし、20代後半にもなると、ストレートで就職している人は課長補佐になっている場合も多いです。その場合、この規制がかかります。

規制の概要は、
利害関係企業等に対し、
1.当該利害関係企業等又はその子法人に再就職することを目的として、①自己に関する情報を提供すること、②再就職しようとする地位に関する情報の提供を依頼すること
2.再就職することを要求又は約束すること
です。

ここで問題になるのは「利害関係企業等」に該当するか否かでしょう。

他の要件である「当該利害関係企業等又はその子法人に再就職することを目的」、「自己に関する情報を提供」、「再就職しようとする地位に関する情報の提供を依頼する」、「再就職することを要求又は約束」は転職活動そのものなので、この要件はほぼ確実に該当すると思います苦笑

履歴書を送ったら「自己に関する情報を提供」ですし、「再就職しようとする地位に関する情報の提供を依頼する」は求人票をもらったり、仕事内容や想定年収を聞いたりすれば該当してしまいます。また、無事採用面接が終わって内定をもらったら(受諾したら)、「再就職することを要求又は約束」に当たります。

※私は国家公務員法の専門ではないので、条文の解釈に責任は終えませんが、役人経験者からすると、上のような読み方をするのが通常だと思います。

そうすると「利害関係企業等」とは何かというのが最も問題になります。

「利害関係企業等」の解釈

「利害関係企業等」という用語は「等」もありますし、いかにも役人的で法律的な用語ですが、その定義が示されています。

利害関係企業等の定義
職員が職務として携わる事務の相手方のうち、1から7のいずれかに該当する営利企業等をいう。

許認可等を受けて事業を行い、又は行おうとしている営利企業等
補助金等の交付を受けて交付対象事業を行い、又は行おうとしている営利企業等
立入検査、監査若しくは監察を受け、又は受けようとしている営利企業等
不利益処分をする場合の名あて人となるべき営利企業等
法令の規定に基づく行政指導を現に受けている営利企業等
国等と一定の契約を締結し、又は契約の申込みをしようとしている営利企業等
犯罪の捜査、公訴の提起又は刑の執行を受ける者である営利企業等

端的に言えば、自分の職務として転職先企業への利益処分・不利益処分(面倒なので検査や捜査を受けることも不利益処分に含めて説明します。本来的には検査や捜査は行政処分ではありませんが。)に関わっている場合が対象になります。規制の趣旨は、利益処分を受けることの見返りや不利益処分を回避することの見返りを禁止することですので、内容的にはまともです。

また、実際の転職活動を考えても、不利益処分を受けるような企業に転職活動をするようなことは少ないと思います(そもそも不利益処分を受けることが少ない)ので、注意すべきは最初の2つだと思います。

つまり、求職先が、許認可対象だったり補助金交付対象の場合です。

ここで問題となるのが「職員が職務として携わる事務」という部分です。
文言だけ読めば、例えば、自分が許認可担当部局にいたとしても、自分の仕事として関わっていなければ問題にはなりません。
したがって、自分が企画担当の課長補佐で、執行(許認可や補助金交付)が別のラインで全くそれに関与していなければ、条文上は問題ないと思われます。

このパンフレットでも以下のように書かれています。

Q2.職務との利害関係の有無はどの時点で判断するのですか。
A2.職務との利害関係は、最終官職の職務ではなく、職員が求職を行う時点の職務で判断します。したがって、求職中に人事異動があれば、異動後の職務についてもあらためて利害関係の有無を判断します。

逆に言うと、総務課などに所属していて許認可や補助金執行の決裁ルートに入ってしまっている場合、自分がその業務を行っていなくても注意が必要です。
~30代くらいの課長補佐だと、総括担当の課長補佐などが考えられると思います。
普通に転職活動をしているのに、たまたま決裁ルートに組み込まれてしまっていた場合、異動するまで我慢するしかないというように読めます。国家公務員の転職は想像以上に制約が大きいです。

なお、先程紹介したパンフレット5ページ目の下の赤枠ですが、

※ 求職しようとする営利企業等が利害関係企業等に該当する否か判断できない場合は、求職活動をする前に、所属する府省等の人事当局に必ず確認してください。

と書いてあります。

転職活動をする前に、人事担当に、転職活動をする旨を伝えるということですが、まったくナンセンスです。
転職活動は会社に言わないでやるのが常識です。日本的な大企業であればあるほど、そうしないと職場にいづらくなりますし、仮に内定がもらえず転職をやめた場合に気まずくなります。日本的大企業の最たる例である官庁においてはなおさらです。

この解説を書いた人は、全くジョブマーケットのことを理解していないように思います。本音では、国家公務員というのは一度採用されたら、転職するなということかもしれませんが。

なお、これらの規制は、官民人材交流センター紹介の案件であれば問題ないとされていますし、委員会(再就職等監察官)の承認を得た場合については、求職活動の禁止が解除されます。ただし、一般の行政職が求職活動をするような企業はまったく対象になっていませんので、全然現実的ではありません。

上の再就職規制についての条文は以下のとおりです(役人だけに、説明だけではなく元々の条文を見ないと信用できないタイプです。)。

◯国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
(在職中の求職の規制)
第百六条の三 職員は、利害関係企業等(営利企業等のうち、職員の職務に利害関係を有するものとして政令で定めるものをいう。以下同じ。)に対し、離職後に当該利害関係企業等若しくはその子法人の地位に就くことを目的として、自己に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該地位に就くことを要求し、若しくは約束してはならない。
○2 前項の規定は、次に掲げる場合には適用しない。
一 退職手当通算予定職員(前条第四項に規定する退職手当通算予定職員をいう。以下同じ。)が退職手当通算法人に対して行う場合
二 在職する局等組織(国家行政組織法第七条第一項に規定する官房若しくは局、同法第八条の二に規定する施設等機関その他これらに準ずる国の部局若しくは機関として政令で定めるもの、これらに相当する行政執行法人の組織として政令で定めるもの又は都道府県警察をいう。以下同じ。)の意思決定の権限を実質的に有しない官職として政令で定めるものに就いている職員が行う場合
三 センターから紹介された利害関係企業等との間で、当該利害関係企業等又はその子法人の地位に就くことに関して職員が行う場合
四 職員が利害関係企業等に対し、当該利害関係企業等若しくはその子法人の地位に就くことを目的として、自己に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該地位に就くことを要求し、若しくは約束することにより公務の公正性の確保に支障が生じないと認められる場合として政令で定める場合において、政令で定める手続により内閣総理大臣の承認を得た職員が当該承認に係る利害関係企業等に対して行う場合
○3 前項第四号の規定による内閣総理大臣が承認する権限は、再就職等監視委員会に委任する。
○4 前項の規定により再就職等監視委員会に委任された権限は、政令で定めるところにより、再就職等監察官に委任することができる。
○5 再就職等監視委員会が第三項の規定により委任を受けた権限に基づき行う承認(前項の規定により委任を受けた権限に基づき再就職等監察官が行う承認を含む。)についての審査請求は、再就職等監視委員会に対して行うことができる。

◯職員の退職管理に関する政令(平成二十年政令第三百八十九号)
(利害関係企業等)
第四条 法第百六条の三第一項の営利企業等のうち、職員の職務に利害関係を有するものとして政令で定めるものは、職員が職務として携わる次の各号に掲げる事務の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等をいう。以下同じ。)をする事務 当該許認可等を受けて事業を行っている営利企業等、当該許認可等の申請をしている営利企業等及び当該許認可等の申請をしようとしていることが明らかである営利企業等
二~七 検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務として行う場合における犯罪の捜査、公訴の提起若しくは維持又は刑の執行に関する事務 当該犯罪の捜査を受けている被疑者、当該公訴の提起を受けている被告人又は当該刑の執行を受ける者である営利企業等

(意思決定の権限を実質的に有しない官職)
第七条 法第百六条の三第二項第二号の意思決定の権限を実質的に有しない官職として政令で定めるものは、国家公務員倫理法(平成十一年法律第百二十九号)第二条第二項各号に掲げる職員以外の職員が就いている官職とする。

◯国家公務員倫理法(平成十一年法律第百二十九号)
(定義等)
第二条 (略)
2  この法律において、「本省課長補佐級以上の職員」とは、次に掲げる職員をいう。
一 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号。以下「一般職給与法」という。)の適用を受ける職員であって、次に掲げるもの(ト又はチに掲げるものについては、一般職給与法第十条の二第一項の規定による俸給の特別調整額の支給を受ける者に限る。)
イ 一般職給与法 別表第一イ行政職俸給表(一)の職務の級五級以上の職員
ロ~ヨ (略)
二~五 (略)

3 再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制

最後は、退職した後の規制です。
簡単に言うと、OBが現職に働きかけをしてはいけないという規制です。
その趣旨は分かるのですが、範囲が曖昧で異常に広すぎるようにも思えます。

内容は、離職前5年間に在職した局等組織の職員に対して、再就職先に関する契約等事務について、離職後2年間、職務上の行為をする(しない)ように、要求又は依頼することが禁止されています。

ここでいう「要求又は依頼」とは、契約等事務に関して、作為又は不作為を求める行為だけでなく、公開されていない事項に関する質問も規制の対象となっています。

ここでいう働きかけは、イメージされるような不順なものだけではなく、公開されていない情報を質問するなど、およそ転職先のビジネスがその役所に関係する場合、誰しも聞くような内容も含まれてしまっています。

公開されていない情報を質問することなどは、OBでなくても当然やっていることです。
民間企業は関係省庁のプレスリリースや公開の審議会の議論を聞いてからビジネスの計画を作るのでしょうか。そんなことをしていたら、資本主義の競争の中で利益を出していくことなど不可能でしょう。

もちろん、OBがその影響力を行使して、例えば役所の後輩などから強引に秘匿情報を聞き出すなどをしたら問題でしょう。
しかし、ここでいう働きかけの範囲はそれ以上のものになっています。

若手の~30代くらいの元役人が出身元に影響力を行使することなどほぼ不可能です。あらゆる案件の最終的な責任者は最低でも課室長クラスですが、転職した元役人はその人達の後輩に当たります。
後輩から頼まれてリスクをとって秘匿情報を渡す役人などいないでしょう。もしそんなリスクテイカーであるならば、役所で課室長くらいになる前に民間に転出しているように思います。

以上のとおり、国家公務員の再就職規制を見てみました。
規制の趣旨自体は最もなものだと思いますが、その範囲が広すぎて、本来厳しく対処すべき天下りだけではなく、一般的な転職活動さえも場合によっては規制の対象になってしまいます。

国家公務員という身分の制約は思った以上に大きいようです。
自分自身、国家公務員という身分で得をしたようなことは全然ありませんし、このようなことを調べれば調べるほどむしろ制約が大きいと思いました。

今回紹介した再就職規制もそうですし、副業禁止規定もそうです。
もちろん、公務に弊害が及ぶようなことはあってはならないですが、そうでなければ人権がある我々はどこで何をしようが本来は自由なはずです。

数年前からの官僚批判もあり、また、最近の文科省の組織的再就職斡旋の発覚により、官僚に対する世間の風当たりは強くなっています。
襟を正して公務をきちんとやるのは当然ですが、公務とは異なる場所で活躍をしたいという志がある若手が転職しづらいような制度はやりすぎのようにも思います。

本来的な悪い行為に厳正に対処するのは大いに結構ですが、それが若手の夢や志を妨げるような運用にならないように切に願います。

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